見る、聞く、言わざる

 パリ郊外から始まった暴動を話題にしたブログを見て回ったところ、日本だけではなくフランス語のブログにおいてすら、暴動の主柱をなしているとされるアラブ・アフリカ系移民*1について、「自分の意志で移住してきたのに思うようにならないからといって不満を抱いて暴れるのは身勝手だ」というような類似の意見をいくつか目にした。素朴な実感と言ってしまえばそれまでだが、差別の問題を脇に置くとしても、いささか歴史的視野に欠けてはいやしないだろうか。
 そもそも、移民の出自をたどればそのほとんどはフランスの旧植民地出身だ。たとえミクロのレベルでは自発的に自分の国を出て旧宗主国であるフランスに赴いたのだとしても、マクロのレベルで見れば彼らをしてそうさせたうえに、フランスをして彼らを受け入れさせるに十分な経済的要因や社会構造があったのではないかと検証してみる必要はあるだろう*2
 だがそれはそれとして、少なくとも、目下の治安維持に心を砕かなければならない政権担当者でもなく、暴力に巻き込まれる恐れがあるフランスの市民というわけでもない、つまり否応なく即リアクションを起こさざるをえない立場にあるわけではない、という意味で無関係な遠国の人間として、もっと限定すれば私にとっていま必要なことは、暴動を性急に否定することでも肯定することでもなく、ましてやなんらかの評価をくだすことではない。ただ、なにが起こっているのかをじっくり見つめ、人びとの声を聞くことだ。先日はつい脊髄反射的なエントリを書いてしまったりもしたが、一般論としての移民問題ではなく、今回のことについて考えるのはそれからでも遅くない。今はまだ材料(情報)が少なすぎる。
 それは安全地帯にいる第三者の無責任な身振りにすぎないといわれればそれまでだし、またそのとおりなのだが、直接ものごとに関わることがないために客観的で冷静な視点を保てるのが、第三者の短所であり長所でもなかったか。私自身、なんらかの先入観や直感に囚われてものごとを見る傾向がないとはいえないので、自戒を込めて。

*1:実際には、移民二世三世だが。

*2:この問題に関する日本語文献は少ないのだが、林瑞枝『フランスの異邦人』ISBN:4121007166、ミュリエル・ジョリヴェ『移民と現代フランス』ISBN:4087201899タハール・ベン・ジェルーン『歓迎されない人々』ISBN:479496160Xって参考になる。