サルトルと出産

 やっとこさ読み終えたベルナール・アンリ・レヴィの『サルトルの世紀』に触発されて、サルトルの『実存主義とは何か*1』をひさしぶりに読み返してみた。
 内容とは全然関係ないのだが、私の本棚にあるこの本は、ずいぶん前に古本屋で50円という安さにつられて買ったもので、あちこちに鉛筆で傍線が引かれているうえに、空白ページにどうにも気になる書きこみが残されている(まあ、だから安かったんだけど)。
 それはどういうものかというと、「昭和三十○年(一九○○年)○月○日 ○時○分」という日時のあとに、「○○病院で男子出生」と記されている。「母子共に頗る元気」だったそうで、そのこと自体はたいへんめでたいのだけど、ひょっとしてこの本の元の持ち主は、今にも自分の子供が生まれようというときに病院の廊下で鉛筆片手にこんな本を熟読していたのだろうか、と思うとなんだかおかしな感じだ。まだサルトルの知的影響力が大きかったことの表れということだろうか。
 それはともかく、どうしてこんな記念の書き込みがなされた本を二束三文で売り払ってしまったのだろうか、といろいろ想像してしまうのが困りものだ。おかげで肝腎の本の内容がちっとも頭に入らない。書き込みのある古本は買うものではないということだ。とはいえ、はやりの新古書店では汚れや書き込みの酷い本はそもそも買い入れないようだが。

*1:原題は『実存主義ヒューマニズムである』