『ワトソンはいかにしてトリックを学んだか?』コナン・ドイル著

 前回のエントリで取りあげたシャーロック・ホームズの掌編をなんとなく訳してみる。おもいっきり直訳なのですごい読み辛いけど。あと、ボードレールは長すぎるので訳し(せ)ません。あしからず。

 ワトソンは朝食のテーブルについてからずっと、熱心に彼の友人を観察し続けていた。ホームズがひょっと顔を上げると彼と眼があった。
「それで、ワトソン、なにを考えているのかね?」と彼は尋ねた。
「君のことだよ」
「僕の?」
「そうとも、ホームズ。君のトリックというものがいかに底の浅いものかをね、公衆がそれに興味を持ち続けることがまったくもって不思議でならないんだ」
「まったく同感だね」とホームズが言った。「実のところ、僕自身似たようなことを口にした覚えがある」
「君の方法は」とワトソンは手厳しく言う。「実に簡単に身につけられる」
「疑いない」ホームズは微笑んで答えた。「おそらく君はその推理方法を実演してみせてくれるだろうが」
「喜んで」ワトソンは言った。「今朝起きたとき、君はなにかに深く気をとられていたと言うことができるね」
「素晴らしい!」とホームズ。「どうしてそれを知ることができたのかね?」
「なぜなら、君は普段とても身なりのきちんとした人なのに、髭を剃り忘れているからさ」
「なるほど! なんて目ざといんだ」ホームズが言った。「僕は思ってもみなかったよ、ワトソン、君がこんなに出来のいい生徒だとは。その鋭い眼力は他になにか見つけだしたかね?」
「もちろんだとも、ホームズ。君はバーロウという名前の依頼人を抱えているね、そしてその事件はうまくいっていないようだ」
「なんだって、どうしてわかったのかね?」
「封筒の外側にその名前が見えたからね。君はそれを開けると、うなり声をあげて、しかめっ面をしてポケットにつっこんだ」
「見事だ! 君は実に注意深い。他の点は?」
「僕が思うに、ホームズ、君は金融投資を始めたんじゃないかな」
「どうしてまたそんなことが言えるのかね、ワトソン?」
「君は新聞を開き、金融欄を捲って、大きな感嘆の声をあげたじゃないか」
「よろしい、実に上手いぞ、ワトソン。他には?」
「そうだね、ホームズ。寝間着の上にガウンを羽織る代わりに黒い上着を着ているのは、もうすぐ重要な訪問客があることの証なんじゃないかな」
「他には?」
「もちろん他の点も見つけることができるに違いないがね、ホームズ、世の中には君と同じくらい賢明な人間が他にもいるということを示すためには、これら僅かなものだけでいいだろうね」
「それに、それほど賢明ではない人もいる」とホームズ。「それほど多くはないことは認めるが、残念なことに、ワトソン君、君をその一人に数えなければならないようだ」
「どういうことだい、ホームズ?」
「ええとだね、君。思うに、君の推理は僕が望んだほど巧みなものではなかったようだ」
「僕の推理が間違っていたというんだね」
「ほんの少しだけどね。順番に要点をつかんでいこうか。僕が髭を剃らなかったのは、剃刀を研ぎに出していたからなんだ。上着を着ているのは、あいにく、朝早く歯医者に行くからなのさ。その名前がバーロウで、あの手紙は予約の許可状なんだよ。クリケットのページが金融欄の隣にあってね、僕がそこを開いたのは、サリーがケントを向こうに回して健闘したかどうか知りたかったからなんだ。だが続けたまえ、ワトソン、続けたまえよ! これは実に底の浅いトリックだからね、君もすぐに身につけられるに違いないよ」