探偵の力
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/11/11
- メディア: 単行本
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まあ、本格以前に目を向ければ、コナン・ドイルはすでに、How Watson Learned the Trick(ワトソンはいかにしてトリックを学んだか) *2において、ホームズの推理が堅忍不抜な論理に基づいて必然的に真理を導き出しているわけではなく、本質的にはワトソンの下手くそな推理と変わらない「底の浅いトリック(superficial trick)」でしかないこと、つまり彼が名探偵でいられるのは彼自身の推理能力や論理以外のなにか――勘、運、偶然、経験、あるいは作者という名の神の手など――によって支えられているのではないかということを示唆しているし*3、また、フランスにおけるエドガー・アラン・ポー紹介者の一人であるボードレールは、《エドガー・アラン・ポー、その人生と作品(仏語)》の中で、ポーの方法論が「蓋然性と推測論の世界で、子供っぽくかつほとんど背徳的なまでの快楽のうちに行われる」ものであると喝破しているわけで*4、上記の問題は決して目新しい題材ではないのだが、それだけ探偵小説にとっては根深いということなのだろう。
探偵小説の極北に、わけのわからない直感や能力で事件を解決する清涼院流水の探偵たちが登場することは約束されていたのかもしれない。