連続試合フルイニング出場から勤勉さの涵養を導く皆勤賞至上主義

(……中略)金本が記録をつくった足かけ8年は高校・大学の7年に匹敵する。この間、優等生で皆勤賞を続けた。フル出場の維持は「仕事に対する責任感」と金本◆そこここで責任感が劣化し、不祥事が続発する世にまたとないお手本だ。
(読売新聞4月10日夕刊第一面「よみうり寸評」より引用)

 これは、阪神タイガース金本知憲選手による連続試合フルイニング出場世界記録の更新をうけた読売の記事というかコラムの一部。
 そのうちこの手の論調が現れるんだろうなと予想していただけに、あーやっぱりね的諦念をもって受けとめたのではあるが、それでもやはり実際にこういう文章を読むと阪神ファン、いやいち野球ファンとしてゲンナリする。
 金本選手の記録は素晴らしいものだが、人によって身体の丈夫さや体力には違いがあるわけで、野球の実力に秀でているからといって誰もが金本選手のように続けて試合に出られるわけではない。選手個々人の体調や体力を見極めて適宜先発メンバーの変更や試合中の選手交代をおこない、保有する各選手の持てる力量を最大限に引き出すのが監督・コーチの重要な役目の一つだろう。またメジャーリーグではスタメンで出場するレギュラー選手の多くが定期的に試合を休むが、こうしたことはなんら選手の評価を貶めるものではない。
 金本選手にしても大先輩の「鉄人」衣笠祥雄氏にしても骨折しながら試合に出続けた時期さえあったことを思えば、連続試合出場は一つ間違えば選手生命を危険にさらすリスクを内包しているということを忘れてはならないはずだ。本人がどうしてもフル出場を望み、結果的に好成績を残しているならそれを応援するのもいいけれど、選手本人ではなくファンやメディアが連続試合フルイニング出場を自己目的化して一方的な期待をかけるようなことになれば、それは僭越を通り越して犯罪的ですらあるだろう。
 まして、野球を離れれば、一般的に皆勤賞ってそんなに称揚すべきものかぁ? 学校や会社で皆勤賞をとることと好成績をあげることの間に相関関係があるのかどうかわからないし、あったとしても体を壊す危険を犯してまで追い求めるものかどうかは疑問だ。
 そりゃ本人が学校・会社に一瞬たりとも休むことなく通うことを望み、それを勉学や仕事を続けるモチベーションの維持に繋げているのなら他人がとやかく言う筋合いではないかもしれないが、他人がそれを好ましいものとして規定するとなると話の構図は逆転する。本人が休みたくても休めなくなる雰囲気が醸成されてしまうかもしれず、その結果望まずして過労に繋がることにもなりかねないのだから。そのようなことはゆめゆめ謹まねばなるまい。ましてやプロ野球の記録を「不祥事が続発する世にまたとないお手本だ」などといって一般的な勤労倫理の話題へ連結するなど論理的飛躍もいいところである。