オルネラ・ヴォルタ『エリック・サティの郊外』昼間賢訳

エリック・サティの郊外

エリック・サティの郊外

 私はエリック・サティと聞くとすかさず「三つのジムノペディ」の”ゆっくりと悩めるごとくに”が脳内に流れるか、あるいはジャン・コクトーパブロ・ピカソと組んだ伝説的なバレエ『バラード』の題名を想起するという、音楽的には月並みな人間で、むしろユーモアに溢れる文章家*1としての彼を愛好してきた。はっきりいって邪道だ。そんな人間が本書を繙いたのは、ひとえに「エリック・サティ」と「郊外」というキーワードの組み合わせに興味をひかれたため。
 この本は、モンマルトルからパリ南郊アルクイユに移ったサティの、地域との関わりや政治運動を描いている。どうやら郊外での暮らしは、色々な面で彼の音楽活動に「異化効果」を与えたらしい。伝記を読んだことがあるにもかかわらず、サティというとなんとなく「黒猫」の小洒落たピアニストというあさはかな印象しか持っていなかったのだが、彼の持つ複雑な魅力をもう少し知りたくなった。
 しかし、この本の最大の収穫は昼間賢という仏文学者を知ったことだ。なんでも彼は「フランス郊外文学序説」という論文を書いているそうで、私の関心領域にぴったりあてはまる。もしかして読めたりしないかなーとネットで検索してみたところ、あったよありました。

  • 「フランス郊外文学序説 昼間賢」

http://www.littera.waseda.ac.jp/appendix/CLLF/pdfs/vol22/10%92%8B%8A%D4135-158.pdf(PDFファイル)
 なんでもこれはパリの大学に提出した博士論文の序論なのだそうで、本論(フランス語)も読んでみたいのですがフランスのサーチエンジンで探しても見つからない。残念。しかしこれだけでも日本語で読めるフランス郊外文学や郊外に関する論文としては今のところ貴重。

  • 「揺れ動く音楽地図 フランスから」

http://www.inscript.co.jp/hiruma/index.html
 これはインスクリプトのwebpageにあった連載記事。こちらはまだ読んでないのですが、これも面白そう。

*1:特に書簡において顕著な