アントワーヌ・ドサン=テグジュペリ『プチ・プランス―新訳 星の王子さま』

プチ・プランス―新訳 星の王子さま

プチ・プランス―新訳 星の王子さま

 最近びっくりするくらい立て続けに出版された『Le Petit Prince』の新訳版のひとつ。
 なぜ私が数ある新訳版のなかからこれを手にとったかというと、原題をそのまま使っていたことに加えてフランス語の原文も併録されているから。「星の王子様」って題名、甘ったるくて好きじゃなかったんだ。とはいえ、フランス語の音をカナ表記したプチ・プランスというのも、どんなものかと思わないでもない。これは村上春樹が「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の新訳で使った方法だが、フランス語を知らない人にとってはプランスと言われてもピンとこないのではないだろうか。「小さな王子さま」でよかったのではないかと思う。言っても詮ないことだが。
 いまさらあんなに大量に新訳を出してどうするのだろうかという気もするが、名のみ高くてその実あまり読まれていない古典の名作の宿命で、例の「大切なものは目に見えない」というフレーズだけが前後の文脈から遊離して流通してしまっている感があるので、せっかくだからこの機会に広く読まれるといいと思う。
 あと、フランス語の初学者にはちくま文庫の『星の王子さまをフランス語で読む*1』と併せて読むことをお薦めする。文学テクストを語学学習に用いるのはあまり適切ではないが、この作品は構文も平易で語彙もそれほど多くないので、短いフレーズではなく長い文章を読むトレーニングとして有効だ。