パリ郊外の暴動

 パリ郊外セーヌ・サン・ドニ県のクリシー・スー・ボワで起きた、移民中心の若年層による暴動がどうもフランス全土を揺るがす騒動に発展しそうな気配を見せている。
 ことの起こりは10月27日の夜、警官隊に追われたアフリカ系移民の少年2人が変電施設で感電死したという事件に若者たちが憤慨したことによる。ただし地元警察は少年を追跡したとは認めていない。
 警官隊の鎮圧によって一旦は収まりかけたかと思われた暴動は、治安担当のニコラ・サルコジ内相の不用意な暴言などもあって再び活性化し、クリシー・スー・ボワを越えて燎原の火のように広がりつつある。シラク大統領が沈静化を呼びかけたり、ドミニク・ドヴィルパン首相も若年層の教育や雇用対策に配慮した声明を発したりして事態の収拾を図ってはいるが、シラク―ドヴィルパンとサルコジの政治理念の対立もあいまって政府の対策も有効にまとめられるかどうかは不透明だ。
 そもそも暴動の直接の原因は2人の少年の死だが、それをきっかけにして暴発する不満や怒りが特に移民や貧困層が集住するパリ郊外に鬱積していたことは過去の「パリ郊外というトポス」でも少しふれた通りだ。
 この問題には移民をめぐる文化的・言語的同化政策や彼らの法的地位、それにイスラム・スカーフ禁止に見られる、政教分離政策とイスラム教の軋轢や、早期から成績や進路によって細かく分岐するフランスの教育制度と市場経済との齟齬など様々な事情が複雑に絡まりあっているので、そう簡単に根本的な解決策は見つからないだろう。むしろ、今回の暴動をきっかけにして国民戦線のルペン的な移民排斥論が勢いを増す懸念すらある。対処をあやまるようなことになれば、末は首相か大統領かと目されているサルコジ内相にとって大きなダメージになりかねない。
 それにしてもこの事件に対する日本の報道機関の冷淡さといったら驚くべきものだ。現時点では、私が目にした限りでは新聞の国際欄(外報欄)の目立たない位置に小さな記事が掲載されていただけである。そりゃ直接日本に影響する話題じゃないかもしれないけどさ。多かれ少なかれ現代社会が共通して抱える問題が凝縮されているという点で、日本にとってもけっして他人事ではないと思うのだけど。外国人移民が中心の暴動というところが、日本の報道機関の興味をひかない理由なのだろうか。とはいえこれが仮にューヨークやロサンゼルスで起こったことであればまちがいなく大々的に報道されたはずで、フランスの日本における重要性の低さを表しているということなのかもしれない。それともその両方なのだろうか。
 ちなみに、これまでの経緯はル・モンドのアーカイブで読める。