田代裕彦『平井骸惚此中二有リ』1

 時は大正十二年、探偵作家平井骸惚に弟子入り志願する河上太一は、入門の条件として、一見自殺にみえる殺人事件の解決を課され、平井の長女・涼と一緒に捜査に乗り出す。
 この小説は、(たぶん平成の河上太一)老人の昔語りを、筆者が聞き書きしているという形式で、そうくれば探偵小説のファンなら誰だって半七捕物帖を思い出すにちがいない。平井骸骨が見てもいない河上君の行動を言い当てる場面はシャーロック・ホームズの手法だし、これには推理小説ではなく、探偵小説というなにがなし古ぼけた感じがする呼び方のほうがまったく似つかわしい。
 犯人は簡単に目星がつくし、謎解き部分もちと弱いのだけど、大正の世相やキャラクターの魅力に加え、(いささかリズムが悪いが)講談調の文体が興趣を添えていて、全体的にはけっこう読めるものになっている。ていうかツンデレ系で大正灰殻海老茶式部の涼嬢に萌え。