飛田甲『夏祭りに妖孤は踊れ』

夏祭りに妖狐は踊れ (ファミ通文庫)

夏祭りに妖狐は踊れ (ファミ通文庫)

 『幽霊には微笑を、生者には花束を』の続編。倉木涼子という新しい登場人物を中心にして物語が展開するが、必ず実現される未来の光景が見えてしまうという、「未来視」の能力が事件をひきおこす点は前作と同じ。
 パズル的な疑似時間跳躍SFとミステリーと恋愛というように、いくつもの要素が絡まりあった小説なのだが、コンパクトな文字数でうまくまとまっている。というか、コンパクトすぎるような気がしなくもない。描写が「軽い」のではなくて、「薄い」のだ。もっとも、軽い描写でも重い内容は表現できるし、薄い描写で表現に厚みを出すことも可能ではあるのだが、この小説は厚みのない類型的な描写にとどまっているように思う(まあそんなこと言ったらライトノベルのほとんどはそうなんだけど)。
 しかし、いくつかの欠点を認めつつも、私はこの小説が好きだ。
 それはなぜかというと、この小説の主要な登場人物は、なにか理不尽な事態が自分や親しい人物に降りかかったときに、わかりやすい物語や説話の因果律の枠にむりやり嵌め込んで自分を納得させたり思考停止することを拒否し、直視し難いことや不可解なことに対して目を閉ざしたりそらしたりせず、しっかりと見据えて自分の頭で考えるという、まっとうな意志に貫かれているからである。
 過去の体験から、目の前のものを頭ごなしに否定して目を閉ざしてしまうタイプの倉木涼子が、周囲の人間との関わりを通じて、徐々に目を開いてゆく過程が見所だ。