米澤穂信『氷菓』


氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)


 あちこちで面白い面白いといわれていたので、はじめてこの人の本を読んでみたのだけど、なるほどその期待は裏切られなかった。ただ、個人的にはタイトルになっている「氷菓」の意味に序盤で思い当たってしまい、たぶんそうだろうなあと思っていたらそうだったのでちょっと残念だった。
 古典部の文集と部員の伯父に関する謎を解いていく過程はなかなか鮮やかで読み応えがあったのだけど、読み終わってどうしても疑念が湧いてくるのは抑えられなかった。それはどういうことかというと、この作品で扱っている主要な「謎」はそれ自体が謎である性質を持つわけではなく、事件から33年という時間がたったために昔を知らない主人公たちには謎として見えるというだけなのだ。したがって疑問とは、最初から昔のことを知ってる人を探して聞けばいいじゃん、というものなのだけど、それでは小説にならないからしかたがないか。野暮は言うまい。ネット検索してコピペするより自分で資料を読みこなしたほうが身になるしね。
 とまあうるさいことも書いたけれど、これはミステリーとしてより青春小説として読んだほうがいいのかもしれない。省エネを標榜して何事にも深く関わらない折木奉太郎が、一連の調査と謎の解明を通じて、他人や物事との関わりや自分のスタンスを見直していく過程に注目しよう。
 さて、続編の『愚者のエンドロール』と『クドリャフカの順番』も読まなきゃ。